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ケニア北西部・カクマでの医療現場を見て

阿阪 奈美

 私は98年夏に、ケニアの北西部に位置するカクマ難民キャンプをボランティア活動のために訪れた。活動の目的はキャンプでの図書館建設だったのだが、NGO等が行っている色々なプロジェクトも見て回れる機会があり、私は医学部の友人と共に医療現場にも行ってみた。たまたま同時期に、ボランティアで来ていたアメリカ人医師がカクマに滞在していたので、彼に頼んで、キャンプのすぐ外の病院での手術を見学させてもらえることになった。手術を目の前で見るのは生まれて初めてだったが、「こんなんで良いのだろうか?」と疑問を抱きつつも、結構楽しんでしまった。

 ケニアのド田舎の病院にしては整っていたほうなのかもしれないが、そこはやはりアフリカ。かなりいい加減であった。そもそも医学部生でもない私を他人の手術にいとも簡単に立ち合わせていいのだろうか。患者の許可も取らずに、である。(しかも私達が見た手術のほとんどは下半身の手術だったのだ。私が患者ならとても恥ずかしい思いをしただろう。)手術が始まるまでにも毎回数時間待たされた。理由を尋ねると、「電気が止まっちゃっているんだ。もう少し待たないと・・・」とのこと。病人を手術室に運ぶために、別のベッド移動させる時も、看護婦はあまり手伝わず病人が自力で移動していた。日本だったら看護婦が数人がかりで動かしてくれるだろうに・・・いざ手術室に入ってみると、手術台の照明の電球のいくつかが切れていた。新しい電球に変える気配もないし、そもそもカクマでは電球が売っていないのであろう。そしてラジカセからは軽快なアフリカ音楽が流れていて、医者と看護婦はリズムを取りながら体を動かしている。日本でも手術中に音楽をかけることもあるようだが、結局医者が本当に集中して執刀していた時以外はずっと音楽がかかっていた。そして手術が始まっても彼らは陽気であった。日本のドラマで見るような、堅いシリアスな雰囲気はない。皮膚を何かの器具で燃やして煙が上がると、「ニャマ・チョマ(焼肉の意)の匂いがするね〜」と言ってみたり、途中で人手が足りなくなったからといって、ド素人の私に酸素を送るポンプ(のようなもの)を押すように頼んでみたり、そしてそのポンプのチューブが外れたり・・・しかし、医者は親切で手術中にも関わらず、医療用語の辞書を一緒に見て説明してくれたりもした。(「日本から沢山のコンドームが寄付されるけど、小さすぎてこっちでは使えないんだよね〜」とも彼は言っていた。)また、衛生面でもとても良いとは思えなかった。手術室のドアは部屋が密閉されるような作りではないし、私達も一応手術服を着てマスク・帽子をつけてはいたが、とてもあれだけで細菌の感染が防げるとは思えない。それに、手術室の中にあろうことかハエが一匹飛んでいて、それを殺すために看護婦の一人が殺虫剤をまき始めたのには、とても驚いた。

 楽しかったのは事実だが、同時に考えさせられもした。この病院には地元のトゥルカナ族の患者もいるのだが、彼らのほとんどは病気にかかっているという自覚があまりなく、末期になってから来るので、その時には既に手遅れのケースが多いそうだ。例えば、ガンの手術で腫瘍を取り除いたとしても、他の部分にも広がってしまっているので、いずれその患者は死んでしまう、とのことだ。また、女性性器切除の手術を受けたソマリ族の女性患者を見た時は、同じ女性として胸が痛んだ。彼女は小さい時にその手術を受けたのだが、今度結婚する事になったので、一度小さく縫い合わせたその「穴」(適切な表現でなかったらすいません)を切り広げる手術を受けに来ていたのだった。この時ばかりは、「これでだんなは楽しめるね」などと言っていた医者の神経が理解できなかった。

 まさかカクマで手術を見学させてもらえるとは思ってもいなかったので、とても貴重な体験だったと思う。医者も看護婦も皆、淡々とした態度で働いていたように私には見えた。患者の命を無理に救おうとするでもなく、かといってあきらめているでもなく・・・しかし彼らはかなり若いにも関わらず、落ち着いていてとても頼り甲斐があった。日本の医者があの病院に行ったらどうするだろうか、また逆にあのケニア人の医者や看護婦が日本の立派な病院にきたらどうするだろうか、と時々想像してしまう。

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